2023.10.24
絵画について|版画
目次
版画はオリジナルが一つしかない油絵や水彩画などと違い、一気に複数枚を制作できるのが特徴。
そのため一点ものと比べて手頃な価格で購入できる点も魅力ですよね。
今回は版画の魅力を徹底解説します。
1.版画の定義
まずは版画とは何か?その定義から見ていきましょう。
版画とは
版画は土台となる版(はん)にインクを載せて、紙に擦り付け絵柄などを写し出す、今の印刷の元祖となった技術。
その最大の魅力は、同じ絵を何枚も複製できること。
7~8世紀頃には東アジアで木版印刷が見られ、764~770年の日本では国内で年代が明らかになっている最古の「百万塔陀羅尼 (ひゃくまんとうだらに)」が刷られました。
かなり古い年代から人々は印刷することで効率を考えていたことになりますね。
印刷の土台となる版には木が使われることがメインでしたが、時代が進むにつれて木以外の陶器や金属も使われるようになります。
15世紀頃には銅版画が誕生、それまでの文字に特化した印刷から絵画を写す版画がスタートしたのです。
種類(凸版・凹版・平版・孔版)
版画には次の4種類があります。
- 凸板:浮かび上がらせたい部分の周辺を削り、インクを載せたあとに圧をかけながら絵を刷る、日本で一番使われている技法。色を付けたくない部分を彫っていく「消しゴムはんこ」や「芋判」などが分かりやすい例です。
- 凹板:板全体にインクを載せ表面を拭い、引っ込んだ部分のみインクを残した後、湿らせた紙を置いてインクを紙に吸引させ印刷する、繊細なタッチが表現できる技法。紙幣やパスポートに用いられています。
- 平板:1枚の版の中に①親水性と②親油性の箇所を作り、版を水で濡らしインクを載せると②のみインクが付き紙に印刷できる比較的新しい技法。ポスターや広告・書籍・雑誌などに多く使われています。
- 孔版:版に穴を開けインクを押し出し紙に刷り込む、左右が反転しない技法です。皮・布・プラスチック・金属ガラスなど、さまざまな素材に印刷できます。
2.版画に使われるもの
次に版画に使われる画材と素材を紹介します。
画材
版画の画材は次のようなものです。
- 彫刻刀
- インク
- 練り板:インクを伸ばすときに使用
- 練りベラ:余ったインクを練り版から取ったり、インクを混ぜたりするときに使用
- ローラー:版木にインクをのせるときに使用
- バレン:木版画において、インクを付けた版木の上に乗せた紙をバレンで擦ることで圧をかけ、版木にのっている絵の具を紙へと転写させるための摺り道具
- 作業版・滑り止めマット:彫るときにグラグラしないようにする道具
- 墨汁・刷毛:彫った後が明確になるように版木に薄墨を塗る際に使用
- 刷り紙:絵を写す紙
- 見当紙:刷り紙と版木を合わせるために 「」の印を付けた紙
素材(土台となるもの)
版画は比較的素材の自由度が高いようです。
スタンダードな木以外にも、次のようなものが土台として使われています。
- 布
- ゴム
- 紐
- 糸
- 紙
- プチプチ(緩衝材)
- バラン
- 消しゴム
- 芋
- 段ボール
など。
なるほど。ユニークな素材が多いですね!
3.版画のここがおもしろい!
版画っておもしろいですよね。
どこがおもしろいのでしょうか?
技法
版画は使う技法によって、まったく異なる風合いを楽しめる点がまずおもしろいですね(^^)
その技法とは、
- 木版画:木の板に彫刻刀で彫っていくため、線が太目で安定感が出る。ダイナミックな線が得意
- エッチング:銅板にニードル(針)で線を描く技法。緻密な表現やシャープな印象などが出せる
- シルクスクリーン:メッシュ状の版に孔(穴)を空け、孔のみにインクを落とし印刷する技法。Tシャツなどのプリントにも使われる。
- リトグラフ:水と油の反発作用を利用し、描画部分だけにインクが付く技法
「この作品はどの技法を使った版画かな?」など、考えながら鑑賞するのも楽しいですよ( ^^)
楽しみ方
版画は元となる原版があれば、半永久的に同じクオリティの作品をコピーできます。
そのため昔の人々にとっては、有名作家の作品を複製して多くの人が楽しめる夢のような技法であったことでしょう。
印刷技術が進んだ現代では、オリジナルとは違う色使いや日本画や洋画の画像を元にシルクスクリーンでコピーするなど、より自由度の高い楽しみ方がなされています。
それでも版画特有の「均一に絵の具を重ねる平面的な表現」や「インクが乗っている部分の凸凹とした手触り」などは素直に味わいたいもの。 見る角度・照明の種類・当て方を変えると、意外と表情が変わって見えるんですよ。
さらに、自分で版画を作るときは制作途中の絵も刷っておけるため、完成品と比べるのも楽しみ方の一つです。
4.有名な版画家
数多くの版画家の中から、有名な作家を3名ご紹介します。
葛飾北斎(かつしかほくさい)
葛飾北斎(1760〜1849年) は江戸時代後期に活躍し、今でも世界中の画家に影響を与え続ける浮世絵師。
1998年アメリカのLIFE誌で「この1000年間で偉大な業績を上げた人物100人」 において、日本人でただ一人選ばれたほど世界に誇る芸術家です。
「HOKUSAI」と聞けばピンとくる外国人も多いはず。
歌川広重とならんで日本の浮世絵界を牽引。90歳でこの世を去るまでに30.000点もの作品を残しました。
70歳を過ぎてから発表した浮世絵版画「富嶽三十六景」は誰もが知る葛飾北斎の代表作として有名。圧巻の画力と周囲の想像を超えるアイデアで、全国各地から見たあらゆる富士山を描きました。
特に「神奈川沖浪裏」は、自然の怖さと人間の営み、全てを包み込む山の雄大さを表現した傑作として海外でも評価されています。
しかし当の北斎はと言うと、異常までの向上心と執着とも言える浮世絵への情熱が強烈だったことで有名。
片付けがひどく苦手だった北斎。散らかすだけ散らかしてからの引っ越しを90回も繰り返したり生涯で30回も改名したりと、まさに型にはまらない天才を地で行く様子には弟子たちもさぞかし困惑したことでしょう。
しかし90歳という当時ではかなりの長寿であった北斎は、多くの弟子を取りながら生涯現役を貫き、人気絵師の地位を譲ることなく後継者育成を続けた人でもありました。
なんでも「あと5年、10年生きることができれば真の絵描きになれた」と嘆いていたとか!
端から見ると何かに取り憑かれたかのようにも感じますが、自分でも消化しきれないほどの絵を描く・表現することへの尽きない情熱をなんとか形にしようとしていたのかもしれません。
その気持ちが純粋だったからこそ、ちょっと(かなり)変わった人柄でも多くの弟子たちがついていったのでしょうね。
棟方志功(むなかたしこう)
棟方志功(1903〜1975)は、昭和45年に文化勲章を受賞した「世界の宗像」として有名な木版画家です。
1903(明治36年)年9月5日、青森市に生まれ、大正13年に画家を志して上京、独学で絵を学びました。
版画の世界に足を踏み入れるきっかけとなったのは、大正14年、川上澄生の「初夏の風」 に感銘を受けたから。
昭和31年にはヴェネチア・ビエンナーレで版画部門のグランプリを日本人で初めて獲得。
昭和38年頃から視力が一気に悪くなりましたが、出身地青森のねぶた祭りのようなエネルギーと自由な作風で数々の作品を残しました。
【美人大首絵】などの代表作や、棟方志功について詳しく読みたい方はコチラの記事をご覧ください(^^)/
菅井汲(すがいくみ)
菅井汲(1919〜1996)は フランスを活動の拠点にした、戦後一番早く欧米から評価を受けた作家の一人。
はじめは象形文字を真似たものから制作をスタートし、1962年頃からは幾何学的なフォルムをはっきりした色で表現するようになりました。
リトグラフやシルクスクリーンを駆使した版画作品を多く手掛け、国際美術展で複数回賞も受賞。今でのファンが絶えない魅力的な作風が特徴です。
作風だけではく、どこか破天荒な人柄までも魅力的なのが菅井汲。
ポルシェが大好きで爆走を繰り返していた菅井でしたが、1967年頚椎骨折の大事故を起こしてしまいます。
完治までに8年かかると言われるほどの重症を負いましたが、助手の助けもあり、なんと事故の翌年には仕事復帰!
1970年代からは代表作「スクランブル」のように、円と直線を組み合わせたシンプルな作品を制作するようになり、モチーフはより機械的に表現されていきます。どことなく道路標識に似ているあたりは菅井が根っからの爆走好きだったからかも…しれませんね!
表現の無駄を取り除く作業はやがて食生活にまで影響し、3食同じメニューを20年間も飽きずに食べ続けたと言いますからもう脱帽です。
【菅井汲が20年間食べていたメニュー】
- 朝食:コーヒーとチーズ、パン、ジュース
- 昼食:スパゲッティトマトソースとソフトサラミ
- 夕食:季節のサラダと薄切りステーキ1枚、ご飯
いや~すごい。何を食べるか考える時間ももったいなかったのでしょうね。スピード重視という面ではまったくブレていませんね!
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